見る見るやつれ、元気をなくし、Aさんご夫妻も非常に心配されていた
梅雨入りの頃の話しだ、ある日の夕方、Aさんの携帯電話が鳴った、着信を見ると公衆電話だ
放っておこうかと思ったが虫が騒いだ、でも出ると無言・・・
それでもやはり母親だ、無言の向こうに何かを感じたのだろう
『K君?K君でしょ?何かあったの?練習中でしょ?』
無言、そして泣き声を押し殺す気配、頭の中が真っ白になりながらもAさんは気丈に言った
『今日はK君の大好きなトンカツ、いーっぱい作って待ってるからね、ね?ちゃんと帰って来てよ』
電話は嗚咽がフェードアウトして・・・切れたそうだ
Aさんはその後、慌てて買い物に行って、泣きながらトンカツを揚げたそうだ、何枚も。
K君の野球部、推薦枠外で入部した者は、篩(ふるい)にかけられるようで、毎日意味のない
ランニングでグランドから遠く離れた山の上まで走らされるだけ、球に触れることも出来ない
その上、そこでもタイムを計られ、さらに篩にかけられる、と。
K君はその日、篩にかけられた一人となったようで、明日から来なくていいと暗に言われたそうだ
その後、ショックのあまり仲間からはぐれてしまい、山道を迷い、やっと下った見知らぬ街の
公衆電話からAさんに電話をかけ・・・。
泣きながらそんな話をするAさんに、ヨメは、学校にクレームしてもいいのでは?と言ったが
初めから分かってたことだと、それでも夢を、甲子園の夢を捨てられなかったのだと・・・
駆け抜けたほうが速いと理屈ではわかっていても
一塁にヘッドスライディングしてほしい。
守備位置とベンチの往復は全力疾走してほしい。
真夏の炎天下を走ることや雨の中でボールを追うことの「意味」など問わないでほしい。
真っ黒に日焼けしてくれ。家に帰ったら泥のように眠ってくれ。
勝ったら仲間と抱き合ってくれ。負けたら、子供のように泣きじゃくってくれ。
- 重松 清 『熱球』 より-
大好きな重松の言葉だが、これはオトナが持つ幻想なんだろう
こんな風に、何も考えず純真に、真っ直ぐに、力いっぱい球を追いかけることの出来る
そんな幸せな高校球児は、ほんの一握りなのだろう
この夏、全国に何百、何千人もの、選手にすらなれないK君たちは
どんな思いでTVの前で観戦しているのだろうか
そう思うと、ガッツポーズでホームインする笑顔も、少しほろ苦く見えてくる
それでも応援しよう、その一握り、その中から
この夏、一度も負けなかったチームが決まるのだ
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まためぐり来る夏の日に 心ふるわす人がいる
あれが確かに青春と 胸に瞼に刻み込む
時よ止まれよ ただ一度 奇跡起した若者に
雲が湧き立つ甲子園
君よ八月に熱くなれ
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