2011/07/11

一杯のかけうどん

日中の移動で新大阪駅で乗り換えることになった
遅めのランチは、浪花そば・・・10年?いや15年ぶりだ?
あのおばちゃん座ってるかも?いるわけ無いよなぁ、15年も経つと
お店に入る、あの日、あの時食べられなかった”天ぷらうどん”をオーダーする


てんぷらぁ~、うどぉ~ん、いっぱぁ~ぃ

スピーカーから聞こえる独特な節回しは似てるが、やはり、あのおばちゃんでは無かった


15年前、オレは北大阪の自宅から京都のクライアント先に2時間近くかけて通ってた
そのクライアントは、今で言うモンスターで、前任の課長は胃に穴が開いて入院
そのまま会社を去ったと知ったのは、30名をまとめる責任者として配属された後だった
業界最大手、イメージはクリーンなクライアント、しかし中身はダーク、いやブラックだな
その上クレージーだ。そのクレージーの代表である責任者A氏とオレは、2年間戦った。




  
ことあるごとにクレーム、二言目にはお前じゃハナシにならん、社長を呼んで来いと怒鳴られ
どんな小さなトラブルも”お前が現場を離れるからや”と軟禁され、7日や10日間
家に帰れないことなんてザラ、それどころかクレージーな上に沸騰すれば暴れるクセもあり
”お前んとこの会社はオレをクビにするつもりかーっ!”って、突き飛ばされ
ホワイトボードごと倒れされた上に、飲みかけのコーヒーをかけられた事もあった
クレージーだった、徹底して。それでも負けなかった、負けたくなかった。


そんなクレージーな日常のある日、そのときも軟禁8日目くらい、もう限界状態の朝4時頃
トラブったので助けて欲しいと、泣き顔のクライアント若手社員に仮眠室で起こされた
そのトラブルは、オレのチームの責任範囲外、ふん、いい気味だ

 
たまにオレ達の気持ち味わってみろ!なんて思ってはいたが、同じ現場を守る者同士
助けてやるか、なんて気軽なカンジで手を貸すと、これが手こずって調査に2時間もかかった
発見したミスを手直ししてやると、タイムリミット10分オーバーしたがシステムは上がった
 
これで、初めてA氏の鼻を明かせてやれるじゃないか?なんて、やった感で朝を迎えたが・・・
出社して、経緯を聞いたA氏は、会議室にオレを呼び出すと叫んだ


勝手なことをするなー!
お前のせいで10分遅れや
責任とれー!ペナルティや!社長呼べー!
 
何かがキレた、ぷつんって音がした
机越しに怒鳴り散らすA氏に、一言も残さず部屋を出た、廊下でも大声が追いかけてきた
このままじゃ自分が何するか分からなくなって自席まで走った



上着と鞄だけ掴んで、誰にも何も言わずビルを出た

外は寒かった、寒いはずだ、京の街には小雪が舞っていた、軟禁状態のおかげで
季節の変化すらロクに知らないオレはコートも無く、国道沿いで震えながらタクシーを待った
京都駅から快速電車のシートで泥のように寝た
ポケットではマナーモードのケイタイがうんうん唸ってたけど全て無視した
  


10時過ぎだったか、新大阪で下車すると、ホームを歩く足元がフラついてる
あぁ、寝不足もあるけど、最後にメシ食ったのいつだったけ?
たぶん、24時間は経ってるよなぁ、そんな毎日だった


地下鉄に乗り換えるためにコンコースへ上がると、美味しそうな出汁の香り

 
  

吸い込まれるように入った店が、立ち食の”浪花そば”だった

あぁ、ここ、立ち食いだけど天ぷらは揚げたてで美味しいって有名なお店だ
あっつーい天ぷらうどん、食べたいなぁ、とサイフを見てもタクシー代払った後だ
残ってたのは、600円・・・地下鉄のキップ代残すと、食べられるのは、かけうどんか・・・
当時、まだ少なかった給料、軟禁状態では外食の連続、お金もどんどん無くなって
タバコさえ自由に買うことが出来ない日々だった


かぁけぇ~、いっぱぁ~ぃ
 
入り口に座る小柄なおばちゃん、その独特な節回しがマイクで響くと、すぐに丼が出た
その丼の前では大きなナベで油が沸いていて、次から次へ美味しそうな海老が揚がって行く
その海老天を羨ましそうに見ながら、丼の湯気を一息吸う、暖かな出汁の香り
その湯気が、すーっと入って来ると、突然ぽろぽろ、ぽろぽろ、大粒の涙が落ちはじめた


なんでオレ、こんなんなるまで働いて、天ぷらうどん食べるお金さえないねん?
今日が何曜日かも分かれへんねん、そんだけ働いてるねん、もうボロボロやねん
オレが何した言うねん、何が悪いねん、オレも入院したら許してもらえるんか?


刻みネギに一枚のカマボコが浮かんだだけの、かけうどん
その丼を前に、箸も持たず大粒の涙が零れるままのオレに、何かが差し出された
見るとシワシワのポケットティッシュ、消費者金融が街で配ってるものだ


にぃちゃん、それで顔拭きっ、拭いたら早お食べ!

怒った顔で背を向けたのは、あの入り口のおばちゃんだった
それで初めて自分が一口も食べてないことに気付いたオレは、顔を拭ったけど
涙と鼻水は止まらなくて、顔をグシャグシャにしながら、うどんをすすった
美味かった、死ぬほど美味かった、暖まった、全身が弛緩するほど暖まった
食べ終わると、ティッシュの残りを、おばちゃんに差し出した


こんなもんいらんし、持って帰り
少しはマシな顔になったなぁ、しゃきっとして帰りや
ホーム落ちたらアカンで?分かってるやろなにぃちゃん?


おばちゃんにお礼を言って地下鉄まで歩く、キップを買うと残りは20円だったか
最寄の駅に着いて気付いた、バス代無いし・・・雨降って来たし・・・、雨の中20分歩くのか
ため息で改札を出る、すると懐かしい人が立ってて、心配そうにこっちを見てた


迎えに来てん。会社・・・Yさんから、電話があってん。・・・何かあったん?

久しぶりに会うヨメさんだった
グッと耐えた

・・・なんも無い
風呂入って寝る、明日の朝まで寝る。起きたらシゴト行くし。ちゃんと行くし。
それよかオレな、お金無いねん、全財産20円やで?カッコ悪いやろ?30過ぎてやで?
笑うよなぁホンマ。でもな、オレな、逃げたりせぇへんねん負けへんねん、絶対。明日ちゃんとシゴト行くねん。


ヨメさんは不思議そうな顔で、それでも何も聞かずに傘を出してくれたっけ。



浪花そば、あの日から、一度も入っていない
恥ずかしかったから?なんだろうな、よく分からない。
15年ぶりの店内、なーんにも変ってない、あのとき食べられなかった天ぷらうどん
ちょっと嬉しかった、でもやっと食べた天ぷらうどん

あの日のかけうどんの方が何倍も美味かった


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5 件のコメント:

  1. 大晦日の夜に頂いたという
    「一杯のかけそば」を久しぶりに思い出しながら
    民間企業って厳しいなぁ~ と

    返信削除
  2. 浪花そばの看板おばちゃんの素っ気ない言葉にグッときました。だけど、見守ってくれてましたね。ガンバレって云わず、ガンバってた事を見てたかのように。早よ、食べてちゃっちゃっと帰って!っとでも受け取れる言葉の裏に、温かい温度を感じ、仕事中なのにウルウルきました。
    クレイジーなクライアントに、ガツンっと云って欲しかった。ガツンと!云えないけど。
    私は、もう~我慢の限界!ってことあったとき、翌日仮病使ったことありました。考えるために、、、でも、傷ついた心は癒えませんでした。パ~っと、モンブランに行ってたら癒えて帰ってきたかも。

    スロトレさんの、もうひとつの道は、放送作家!
    どうでっしゃろか。

    返信削除
  3. 8739 さん

    うう
    言ってみたい、上から目線で言ってみたい

    >民間企業って厳しいなぁ~

    あぁ、一度でいいから言ってみたい
    ゜゜(´□`。)°





    >かもしかさん


    看板おばちゃんね!ウマい!
    なぁーんかね、すっごい暖かったのですよ、看板おばちゃん
    レジみたいなとこ座っててね、背中向けてるけど、背中で見てるみたいな

    >ガツンっと云って欲しかった。ガツンと!云えないけど。

    うーんん、そんなシーンは何度もあったのですよ、ええ
    でもね、分かってたんです、挑発しておいて
    こちらの暴言とか?引き出して、それをネタにまたクレームしようって魂胆がね、みえみえで
    そんな子供だましな手に乗ってたまるかいって
    グッと堪えてました
    オトナやなぁ~しみじみw( ̄ー ̄)

    >パ~っと、モンブランに行ってたら癒えて帰ってきたかも。

    いーっすね、ぱーっとね?
    って、モンブラン!?(´・ω・`;)
     
     

    返信削除
  4. 涙が出てきちゃいましたよ。。。
    スーサンのブログには何回泣かされて来た事か。。。

    なんか聞いた事あるお蕎麦屋さん屋と思ったら~~
    私が大昔バイトしとった店やん~~(@(エ)@)

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  5. >匿名さま

    何も泣かなくても

    >私が大昔バイトしとった店やん~~

    ひぃっ!あの、あのときの
    入口に座ってた、おばちゃん?

    おばちゃーんんんん!
    ありがとー!!!!!

    なワケないか

    w( ̄ー ̄)

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